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 「宝石の国」

市川春子

 物語の登場人物は、ずばり擬人化された宝石である。外見はもちろん、その宝石が持つ硬さ、割れやすさなどか細かに設定として反映されている。宝石たちは、月からやってくる正体不明の敵、「月人」と戦うために、戦闘、武器製作、服飾等、それぞれの持ち場についていたのだが、彼らの中で最弱と謳われる主人公フォスフォフィライトことフォスは、10段階ある硬度でたったの3というその体の脆さと、なにをやっても失敗ばかりという不器用さから、なんの仕事にも就けずにいた。そんな美しさだけがとりえのフォスが、やっと手に入れた仕事が、「博物誌の編纂」であったのだが…?

 

 この物語に出てくる宝石たちには、死の概念がない。生きていくうえで必要なのは日の光だけで、攻撃されてからだが粉々に砕けたとしても、破片をつなぎ合わせて上からおしろいを塗ればあっという間に元通り、空腹感も痛覚もないのだ。傷つくことを恐れず、まっすぐ敵に向かっていく彼らは見ていて痛ましいが、それでいてとても美しい。彼らと月人の戦いはいったいどうなっていくのか。ぜひ、一度読んでみてほしいおすすめコミックである。

 

書誌データ 講談社アフタヌーンKC

Sayaka Hirano

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